『ハイパフォーマンスブラウザネットワーキング』メモその5

まだ続きます。今日から無線編です。まずは導入部から。

5章 ワイヤレスネットワーク入門

  • WiFi, Bluetooth, ZigBee, NFC, etc問わず、ほとんどのワイヤレステクノロジーは共通の原理原則に沿って動作し、共通のトレードオフを持ち、共通のパフォーマンスの基準と制限を前提としている
  • アプリケーションは、接続の種類に関係なく正常に動作すべきであり、ユーザは接続の種類を意識すべきではない。しかし、開発者は異なる種類のネットワークの違いを予め検討した上でアプリケーションを設計しなければならない。
  • アプリケーションはモバイルネットワークで配信されるかもしれない。しかし同時に、NFCで課金処理を行い、WebRTCを使ったP2P通信にBluetoothを使用し、HD動画のストリーミングにWiFiを使用するかもしれない。ただ一つのワイヤレス規格を選びそれに賭ける、というものではない
  • すべての通信方式には最大のチャネル容量(通信路容量)が存在し、同じ基本的な原理原則によって決定される。最大データ転送速度に関する二つの基礎的な制約事項は、利用可能な帯域幅の大きさと、受信側と送信側の間の信号強度である。
  • チャネル全体の転送速度(チャネル容量)は帯域の大きさに直接比例している。したがって、他のすべての条件が同等であれば、利用可能な周波数帯域を倍にすると、データ転送速度も倍になる。
  • 低周波数の信号はより遠くへ伝わり、大きなエリアをカバーする(マクロセル)。しかしより大きなアンテナが必要となり、1つのアンテナに多くのアクセスが集中する。一方、高周波のシグナルはより多くのデータを転送できるが、低周波の信号ほど遠くまでは到達しない。よって、カバレッジは小さくなり(マイクロセル)、より多数の設備が必要とされる。
  • すべてのワイヤレス通信における基礎的な制限要素の二つ目は、送信側と受信側の間の信号強度である。信号対雑音比、S/N比、SNRなどとも呼ばれる。本質的には、信号レベルとノイズや干渉の比の値である。バックグラウンドノイズの量が大きいほど、情報を伝達するために信号が強い必要がある
  • 信号、ノイズ、出力、そして距離の関係性を表すための例。ある小さい部屋にいて、6メートル離れた別の誰かと話をしているとする。もし誰もいなければ、普通の声の大きさで会話を続けることができる。ここで、パーティのように十数人が同じ部屋でそれぞれ会話を始めた場合、相手の声が突然聞こえなくなってしまうはず。もちろん、より大きな声で話すこともできるが、その場にいる他の人にとってのノイズを増やしてしまう。ノイズが増えると、他の人も大きな声で話し始めるため、ノイズと干渉は増加する一方となる。いつの間にか、部屋の中のすべての人は1メートル程度の距離でしか会話ができないようになる。
    • 遠近問題 … 受信者が強い信号を受信することにより、弱い信号を受信できなくなってしまう状態。近くにいる声の大きい人は、遠くから届く弱い信号を遮ってしまう。
    • セルブリージング … カバーされているエリア、もしくは信号が到達する距離が、累積するノイズや干渉レベルによって拡大もしくは縮小する状態。周囲の関係のない会話数が多くなると干渉が大きくなり、自分に関係のある信号を識別可能な範囲が小さくなる。
    • これらの制限はプロトコルやその基礎技術に関わらず、すべての無線通信において共通。
  • 帯域幅とSN比の他、信号を符号化するアルゴリズムも重大な影響を持っている。0か1のデジタル信号はアナログ信号(電波)に変換されなければならない。変調(modulation)とはデジタル-アナログ変換のプロセスであり、様々な「変調アルファベット」が利用できる。それぞれの変調アルファベットは異なる効率でデジタル信号を変換する。このアルファベットとシンボルレートの組み合わせはチャネルの最終スループットを決定する。
  • baud(ボー)とは、1秒あたりの信号変調回数を表す単位。
  • 変調アルゴリズムの選択は、利用可能な技術、受信側と送信側の計算能力、そしてSN比に依存する。高位の変調アルファベットはノイズと干渉に対する堅牢さを犠牲にしている
  • すべての無線通信は、以下の特性を持っている。
    • 共有媒体(電波)を利用して通信が行われる。
    • 特定の周波数帯に使用が制限されている。
    • 出力が制限されている。
    • 常に変動するバックグラウンドノイズと干渉に依存する。
    • 選択されたワイヤレステクノロジーの技術的制約に依存する。
    • デバイスの形状、出力などに依存する。
  • ワイヤレスネットワークのパフォーマンスに影響を与える要素は、例えば以下。
    • 送信者と受信者の距離
    • 現在地のバックグラウンドノイズの大きさ
    • 同じネットワーク内のユーザによる干渉(セル内干渉)の大きさ
    • 近くの異なるネットワークのユーザによる干渉(セル間干渉)の大きさ
    • 送信者と受信者が利用可能な出力
    • 計算能力と変調アルゴリム
  • ワイヤレスネットワークのパフォーマンスを計測するのは困難な作業である。送信者の位置が数センチだけずれるようなわずかな変更がスループットを倍増させることもある。そしてその瞬間に他のデバイスが近くで通信を開始して無線チャネルの競合が発生し、スループットが半減してしまうこともある。

以上、次はWiFiのお話。時間があるうちは続けます。